サントラ 吉田潔
ポニーキャニオン (2006/07/12)
『時をかける少女』
行ってまいりました!テアトル新宿へ。
さすがに上映館数が少ないだけに人の多いこと多いこと。一番最初の回(AM10:10)に30分以上前から行ってたんですけど、雨の日にも関わらずすでに超満席。立ち見の方も結構多かったです。
まあ口コミで結構広まってきたという感じですね。私もアニメ映画だしなーとちょっと敬遠してたんですが、根がミーハーなので、評判の良いものは見ておこうという軽いノリで行ってみました。
筒井センセの原作も原田さん主演の映画も知らないので、全く知識の無い状態でした。なんとなくタイムスリップものかな~?と思ってたくらいで、あとは男二人、女一人の青春恋愛もの、というイメージが先行。
実際は恋愛ももちろん重要なのだけど、ファンタジックな要素が思ったより強くて驚きました。学校という特別な空間、高校3年という大事な選択を迫られる時期。その中で起きた現実とも空想ともつかない出来事が描かれています。
以下ネタバレあり(大事なとこは一応伏字にしてますが、よく読めば分かってしまいますので注意)
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ほろ苦く切ない。でも見ている側はそれを苦痛に感じない。うまい作り方をしていると思います。青春の1ページの中にファンタジーが混じるのではなく、青春そのものをファンタジーとして描いている、そんな印象を受けました。
青春、青春と大人は言いますが、言われる方は、青春を謳歌してるなんて思うはずもなく。なーんで、こんなつまらなくて勉強ばかりで何も起きない日常が青春なんだよと思う。
でも過ぎてみればそれもこれも懐かしい思い出。それは二度と戻ることのできない瞬間だから。あの時こうしてれば良かった、ああしてれば何か変わったかもしれない。誰もがそんな後悔の念をもっとも強く鮮やかなものとして感じる時代。それが青春なのかもしれない。
その「時間」という概念こそこの映画のテーマで、主人公は何度も時を繰り返すことによって自分の都合の良いように運命を変えていく。妹に食べられたプリンを食べることができたり、テストで良い点が取れたり。運命というにはあまりにも小さなことのように見えたそれが、徐々に周りの人間を巻き込み始め、良かれと思ってやったことが相手を傷つける。その度に主人公は何度も時間を戻り、やり直す。
前半はコミカルに、主人公が時間を操ることができる能力を楽しむところが目一杯明るく元気に描かれていて微笑ましい。アニメーションの動きがとても良いし、背景の丁寧な描きこみ具合には感心。人物の動きが流れるようで、それでいて細かい動きもしっかり作っている。学校の風景なども、黒板や自転車置き場などリアルで懐かしい気分になった。
後半は本当に急展開で、かなりびっくり。あの人が○○○だったなんて・・・。その人が自分の正体を告白するシーンはちょっと突然すぎて笑ってしまいました。とはいえ、あまりにも突飛すぎる展開に、映画自体の流れが破綻することなく、むしろその壮大な設定を一人の女の子の成長物語として内包し、収束させたのは見事。主人公が友達に自分の気持ちをきっぱり伝えるところも、友達が何も言わずに応援してくれるところも、キュンとなりました。
こんなに何度も何度も時間を戻って楽しんでいる映画なのに、「どんなに後悔してもやり直しはきかない」というメッセージがものすごく鋭く迫ってきました。特に後半、主人公の腕に数字が現れるところから、時間は決して戻ったりしないという現実を見せられたようでとても切なくなります。
映画に入り込みすぎて、終わった瞬間少々面食らってしまいました。ラストもかなり良いですね、力強くて。若さが漲っているけどどこか懐かしく、主人公と自分を重ね合わせて見ることができ、「いかにも」な感動映画とは違い、自然と涙がこぼれました。この映画に関しては、一人ひとり感動するところがかなり違うんじゃないかな、と思います。
タイムリープの瞬間や、電車の前を桃が飛ぶシーンなど、独特の美しさを持った画が所々に挟まれ、印象的でした。また、同じ空間、同じ人間関係、同じ時間を何度も何度も繰り返すのに、飽きさせない構成はさすが。主なシーンは家と学校と美術館くらいなのですが、その閉鎖的な空間だからこそ時間の壮大さを描くことに成功したのではないでしょうか。魔女おばさんは、主人公くらいの年の女の子なら大抵タイムリープを経験していると言いますが、確かにありますね。たとえば夜瞼を閉じて一瞬後に目を開けると朝だった、とか(違うか)。主人公に共感しやすいのは、そういった不思議な能力を誰しも持っているのかもしれない、と思わせてくれる演出がされているからでしょうか。もしかしたら、あの頃の私は持っていたのかもしれない、と。もし本気で思いっきり飛ぶことができていたら。小さい頃思いっきり魔法の存在を信じていて、傘で空を飛ぼうとして何度も失敗したことを思い出したりしました(笑)
後特筆すべき点は音楽、です。エンディングテーマも、挿入されるバッハ「ゴールドベルク変奏曲」なども、なかなかいいところをついてます。クラシックの使い方がうまい。また、美術館に飾られていた絵は素晴らしかった。さすがに○○から見に来るほどの美しくも印象的な絵でした。選ぶのに苦労したと思います(あるいはオリジナル描いてもらったのでしょうか)。
それにしても、あの学校は私立のお金持ち学校なんだろうか?守衛さんがいたり、渡り廊下が豪華だったり中庭が妙に広かったり。主人公は普通の家の子だと思うのだけど。ただ、そういう学校の描き方がすごく映画の雰囲気とマッチしていて、なかなか良かった。特に放課後、ピアノでアリアが流れているシーンでは、まるで学校自体が一種のファンタジー空間であるかのように見える(ピアノと放課後という組み合わせは最強です)。その中でも理科準備室はまるで錬金術師の研究所かと思わせる演出で、面白い。もしかしたらあの理科室で昔何かあったのかもしれないな・・・魔女おばさん(原沙知絵の声がぴったり)の写真の後ろにフラスコを持っている学生が写っているのだけど、それが怪しいなあ、と。(実は途中まで魔女おばさんは主人公の大人になった姿だと思っていたw)
魔女おばさんはどういう人なのかいまいち分からなかったのだけど、もしかしたら原作の主人公だった人なのかな?だとしたら面白い設定だと思います。原作も、大林映画の方も是非目を通してみたいと思います。
難点は声・・かな?全体的に良かったと思いますが、ラストの屋上での大泣きシーン(乙一いわく「のびた泣き」)、そして土手を走るシーンの息遣いがエロすぎて映画に集中できんかったわい!キャラ的には津田功介が最強だと思います。理想的なメガネ男子。キャラクター造形は全体的に可愛いかったりかっこよかったりでなかなかよろしい(キャラクターデザインは貞本義行氏)。映画の後で気がついたんだけど千昭が数学が異常に強くて他はダメっていうのも伏線なのですな。数学は国境も時空も越えて永遠ってことか。
主人公がタイムリープして運命を変えようとするというテーマは、アメリカのTVドラマ「トゥルー・コーリング」でも描かれました。主人公のトゥルーは、死者から助けを求められる度に、半ば強制的に過去に戻されてしまう力を持っています。そしてその死者が死なないように、あるいは誰か他の人を助けるために活躍します。死者を助けることで違う人が死んだり、起きるべきことが起きなかったりと、毎回なかなか凝った脚本で面白いシリーズなのでお薦めです。(時間の大切さを扱った作品としてはミヒャエル・エンデの「モモ」があまりに有名ですが、私もこの物語は今まで読んだ本の中で一番好きだったりします)
追記:
製作担当のマッドハウスには大学の先輩が勤めていて、会社自体も近くにあるので結構馴染みのあるアニメ会社なんですが、プリンの製造日のところにマッドハウスの所在地である「杉並区○○」と書かれていたのを私は見逃さなかった!○○が荻窪だったかもしれない。こんなところに小ネタが仕込んであるとは・・・。
<関連サイト>
2006年の夏映画のベスト!『時をかける少女』(海から始まる!?様)
リンクの数がすごい!ロケ地や時間軸検証など詳しく書かれておられます。
時をかける少女

時をかける少女 〈新装版〉

トゥルー・コーリング Vol.1

ところでクルミが○○なのは来る未・・・つまり・・・
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